マエストロサロン


沼尻竜典  ハラダ タカシ

イン

マエストロサロン



 東京国際フォーラムで行われた第38回マエストロサロンの模様をお伝えします。今回は沼尻竜典さんとオンド・マルトノ奏者のハラダ タカシさんにおいでいただき、色々とお話を伺いました。生の雰囲気を伝えるため、原則、校正は行わず、サロンの模様をそのまま再現しました。そのため、部分によってはすぐに意味が把握できないところや、言葉が重複しているところもあるとは思いますが予めご承知おきください。又、このページの記事、写真等のコピーはご遠慮ください。

Vol.1

新井:たくさんの方にいらしていただき、どうもありがとうございます。11月の定期です。11月のマエストロサロンがやってまいりました。それで皆さんもご存知のように今回のマエストロはこちらにみえてらっしゃる沼尻竜典さんです。沼尻さんはですね、以前一度定期では、2年前の9月でしたね。
沼尻:そうですね、マルチェロ・ビオッティさん・・・
新井:ビオッティさんが、急に来れなくなって。珍しいプッチーニの唯一のミサ曲がございます、グロリア・ミサという、とってもすばらしい作品なんですが滅多に演奏されることのない作品をうちが取り上げまして、残念ながらビオッティさんがいらっしゃれなくて、突然、ほんとうに、間際になってお願いしたのもかかわらず、ほんとうにすばらしいコンサートになった記憶がございます。
 今回は、ピンチヒッターということではなく、トゥーランガリーラをうちの方がお願いしまして、振っていただくということで、今回、マエストロサロンにお招きしました。司会進行役と言いますか案内役はいつものようにビオラの新井です。宜しくお願いします。
 それでですね、今日はすごくうれしいことなんですけど、ええ、あの、あ、ちょっと書きませんでしたね。この作品というのはですね、オーケストラプラスにソロピアノ、とっても大変なソロピアノなんですけど、野平さん、現代ピアノでは、もう、傑出してる方ですね。ソロピアノと、珍しいオンド・マルトノ、このオンド・マルトノについては、後でハラダさんご自身からご説明していただきますけれども、オンド・マルトノの名手でありまして、最近のCDですとリッカルド・シャイー、ロイヤルコンセルトヘボーがCDに録音しているときのオンド・マルトノはハラダさんが演奏していらっしゃいます。ハラダさんが、特別に飛び込みで今日来ていただけるということで、すっごくうれしいです。どうもありがとうございます。
ハラダ:あ、どうも。
新井:それでは、いよいよ始めたいと思うんですけど、その前にですね、沼尻さん、マエストロサロン初めてなので、ちょっと沼尻さん自身のことについて少しお聞きして、それからすぐもう今日のトゥーランガリーラという珍しい作品の話をしていただくことにします。それでですね、いつもは最後にマエストロへの皆さんからの質問を受け付けるという時間を取るんですけども、今回はハラダさんにも来ていただいて、曲も曲ですので、できましたら、質問の時間は取らないで、トゥーランガリーラ、或いはメシアン、ハラダさんご自身はメシアンと何度もお会いになって、メシアンのこともよくご存知なので、メシアンのことなどもふんだんにお聞きしようと思います。また、沼尻さんは今回でお付き合いを終わるわけでもなく、また、ここに登場していただくこともあると思いますので、沼尻さんへの質問というのは、次回にしていただきたいと思います。
 それでは、沼尻さん、お忙しいところどうもありがとうございます。
沼尻:あ、いえいえ。
新井:とっても大変な曲を二日続けて練習してきたんですけども、ええ、ちょっと沼尻さん自身のことを少しインタビューさせていただきたいと思います。今は、東京フィルハーモニー交響楽団の「せい指揮者」という・・・
沼尻:ええ、「正しい」指揮者・・・
新井:正指揮者についていらっしゃいますけども、お忙しいんでしょうね、やっぱり。
沼尻:うん、東フィルはね、指揮者もいっぱいいるんですよ。楽員も170人いるんですけど、指揮者も13人います。
新井:あら、そうなんですか。
沼尻:みんなで分けあうとね、そんなに一人ひとりは忙しくない。
新井:ああ、そうですか。
沼尻:死んだ方も入れると14人。
(みんな、笑う)
沼尻:永久指揮者の山田一雄先生。
新井:そうですか。沼尻さんに日本フィルを振ってもらうということは、そんなにもう珍しいということでもないですよね。
沼尻:でも、割と少ない、今まで、10回振ってないですよね。
新井:10回やってないですね、マーラーの4番、それから、ヴィオッティさんの代わりを1回、それから第九を・・・
沼尻:第九を1回どこかで・・・ええと、主催のじゃなくて・・・。あと1回、ウインナワルツ。
新井:そうですね、でも、ごく最近、急に振っていただく機会も増えて・・・
沼尻:そうですね。
新井:いかがですか。ま、こういう場で客演でいらしてるから、あまりオーケストラの悪口は言いにくいでしょうが、うちのオケ振ってて、どういう印象ですか。
沼尻:やっぱり、パワーが、パワーがすごくある。スターウォーズやったときなんかびっくりしました。
新井:やりましたねえ。
沼尻:指揮台の後ろに倒れそうになりました。それからコープランドのシンフォニー。
新井:そうですか、パワーねえ。
沼尻:風圧で・・・
新井:練習の時の雰囲気なんかいかがですか、私どものオーケストラは。
沼尻:和気あいあいで。木野さんが学校の先輩なのでよく知ってて、何かとやりやすくて・・・
新井:そりゃ良かった。ええ、沼尻さんが持っていらっしゃる企画で日本フィルに限らず、これは面白いというものはありますか。
沼尻:ええ、日本フィルとも来年ひとつ、西村朗さんの新作を、彼は今までの作曲人生の集大成の中締めをしたいということで、それを日フィルで、7月ですか、それをやります。それで組み合わせる曲をいくつか提案したんですが、楽員さんの企画会議で選んでいただいて出てきたのが、シェーンベルクの「ペレアスとメリザンド」です。
新井:うーん、これも珍しいですよね。
沼尻:無茶苦茶難しいです。
新井:今回に負けず劣らず難しいですよね。
沼尻:50分くらいかかり弾きっぱなしで・・・、交響詩ですけど。ま、あれは物語に即して、「ペレアスとメリザンド」はいろんな作曲家が書いています、ドビュッシーとか・・・
新井:フォーレとかね。
沼尻:フォーレは有名です。シェーンベルクのは編成が大きくて「グレの歌」に次ぐくらいの大きな編成でして、なかなかやる機会がありません。その2曲をね、西村さんがどんな難しい曲を書いてくるのかわからないのに、難しい曲をカップリングして、ま、非常に楽しみではあるのですけれど。
新井:あれは、ひとつは沼尻さんならではのとこもあったんですけれど。
沼尻:割とそうですね。僕は古いものか新しいものかのどっちかをやる最近傾向がありまして、三鷹のほうでトウキョウ・モーツァルトプレイヤーズという。
新井:あ、そうなんですか。
沼尻:ええ、古典のものを中心にやっているオーケストラで、ま、現代ものもやりますが、この間、メシアンをやりましたが・・・
 それと、シンフォニーオーケストラではツェムリンスキーとか、ベルクの作品、ブゾーニとか。僕は作曲科を出てるもんですから、割とそういう新しいものがいいんだろうと思われて、ずっとやってるうちになんか自分もその気になってきて。ま、今回もそれで頼まれたんだろうけれど。
新井:すばらしいんです。とにかくもう二日ご一緒しててね、あれだけの、スコアもすごいんですが、ここにスコアがありますけれど、こんなスコアなんですけど、音から構成から全部頭にピタっと入ってるんです。
沼尻:これはね429ページ。
新井:ちょっと、中、みせてあげてください。音がねえ、もう、モーツァルトとかベートーベンとかの時代と全然違い、特にメシアンは音の使い方が独特ですから。
沼尻:この辺はね、まだ、音が少ないところで、最後のこういうところが。
新井:ねえ、すごいですよね。ストラヴィンスキーどころじゃあないですね。
 沼尻さんご自身としては、本当はどの辺りがお好きなんですか、時代としては。
沼尻:時代としてはこの辺りです。この辺りとか、今生きてる人とか。僕は三好晃さんに4年間ついてたんですが、曲はあんまり書かなかったんですけど、毎週お話に行くわけです。先生、どうですかって、それがね、本当によかったなって今、思うんです、いろんな話が聞けて。それでまあ、東フィルのことになっちゃいますけど、今年から三好さんの曲を3年間やるんです。
新井:ほおう、それはすごな。ええと、年にどれくらい?
沼尻:ええと、年に4曲です
新井:意欲的ですね。
沼尻:そうですね。ま、三好さんも僕だといろいろ言いやすいということもあるんでしょうが。まあ、大体わかってるんです、彼が言いたいことは。言われなくても。
新井:皆さん、もしご興味ございましたら、三好さんの作品の方にもお出かけいただければと思います。
 ええ、それでは、どうもありがとうございました。いよいよ、ハラダさんにも来ていただいてますので、このトゥーランガリーラという作品について話していただこうと思っています。皆さん、そちらに僕が、参考になるだろうと思う、トゥーランガリーラってのはサンスクリット語の合成語でできているんですが、ま、ヒンドゥの音楽ですから、普通のヨーロッパの音楽じゃなくて、インドの、ヒンドゥですからガムランも出てくるわけですね、書いておりませんけれど。そういった話も出てくると思います。それで、全部で第10楽章までのそれぞれのタイトルも書いておきました。右のほうは、セルゲイ・クーセビッキーという人は、コントラバス奏者であり、指揮者であった人で1942年から49年でしたっけ、確か、ボストンシンフォニーの指揮者をずっと務めていた方なんですね。このクーセビッキーとクーセビッキー音楽財団の方から定期でやる作品の委嘱を受けまして、それで書いた作品がトゥーランガリーラなんですね。初演はもちろんボストンシンフォニーの定期で、指揮は若きレナード・バーンスタインです。あと、日本初演までをずっと書いておきましたので、参考にしていただければと思います。  ええそれではですね、細かい一楽章からの話の前に、全体のことをお聞きしたいと思うんですが、今聞いてみると、当時はすごく衝撃的だったと思うんですけど、今聞くと、そこら辺のアニメーションのバックとか、コンピュータゲームのバックの音楽とそんなに違和感ないですよね。
沼尻:非常に親しみやすい旋律もでてくるし。
新井:あんまり、こむつかしいという感じでもないですね。
沼尻:そうですね、あんまりむつかしく考えることもないんじゃないですか。シェーンベルクなんかよりよっぽどとっつき易いし、シェーンベルクの特に後期のよりはとっつきやすい。和声感もしっかりしているし、これはドミナントであるとか、ここで解決したとか、普通の和声で説明できるところも多いし、そういう意味では、全く無調というわけではない。
新井:全体の感じを皆さんに説明するとどういう感じだと?
沼尻:感じ・・・
新井:お話があるようなないような。
沼尻:でも、やっぱり、シンフォニーですから、描写音楽じゃないので、ここでロミオがどうしたとか、そういう聞き方すると難しいです。やっぱりシンフォニーなんです。
新井:それじゃあ、第一楽章の導入部から沼尻さんのほうから
沼尻:順番に・・・
新井:ええ、或いはグループ別でもいいですけど。
沼尻:導入部からいくと、まず、序曲というのがあって、それから「愛の歌」、あそこに書いてありますよね。この間、マーラーの7番やったんですが、「夜の歌」が2楽章と4楽章にはいって、そういう構成とちょっと似てるようなところがあります。
新井:「愛の歌」なんかはタイトルをみたら、もうわかりやすいんですけれど、ハラダさんにもちょとお答えいただきたいんですけど、この「トゥーランガリーラ」ですよねえ、トゥランガというのは「早駆ける馬」とか「流れる時間」とか「砂が流れ去るような時」とかいう意味があるらしいんですけれど、メシアンが使ったこのトゥーランガリーラって何を表象してるんでしょうか。
ハラダ:このシンフォニー全10楽章、沼尻さんがお見せしたように429ページ、当時は電話帳と悪口といわれたスコアで、この後のメシアン作品もそうですし、或いは他の作曲家もどんどん、大編成或いは長い曲、大きい曲に段々段々作曲家の興味が移っていくし、主催する側も、もっと大きい編成でやってくれって注文がなっていって、このトゥーランガリーラサンフォニーというのが今となってみればそんなにびっくりするほどの大きい編成ではないと、それで、スコアの指定でちょうど100人ですね。
新井:ちょうど100人なんですか。
ハラダ:うまいこと計算してるんですよ。ソリスト入れてちょうど100人になるように指定がしてあって、今、100人を越える編成でやる曲ってありますよね。編成自体もそんなに珍しいものではない、音楽の内容に関しても、戦後の作品としては、いち早くオーケストラのレパートリーとして定着した一曲であろうと、それの証拠として、手前味噌になるんですが、私が録音したコンセルトヘボー盤というのが、イギリスのデッカという会社の録音なんですが、あそこが出している「ベストクラシックシリーズ」というのが廉価版の、普通のクラシックなんか置いてないような小さなレコード屋さんの、それでもそういうのだけは置いてるというような廉価盤のシリーズってございますよね。 そういうのに戦後の作品としていち早くベストクラシック50に入ったということもあって、オーケストラの演奏会にいらっしゃる方にとってはすでに馴染みのあるレパートリーになってるんじゃないかなと。僕自身も最初にこの曲をやらせていただいたのがかれこれ20年近く前になるんですけど、まあそれは東京交響楽団とNHK交響楽団で一番最初にやらせていただいたんですけど、そのときはオーケストラの方も「今度はメシアンをやるんだ!」というものすごい意気込みがあって、練習も通常二日とか三日のところ、四日取ったりとか、時間も多めにとるとかすごい準備して、早くからスコアとかパート譜を渡してみんなに勉強してというのが、段々、いまや、「あ、メシアンネ」、「こんどメシアン?そうなんだ」ていうような、うん、なんかもう定着したのかなって思ってます。 で、トゥーランガリーラというのはサンスクリットからきてるということで、メシアン自身が「早がけする馬」とか「流れる時間」とか、「リラ」の方には「愛」とか、「愛と死」ですよね、最大のテーマになってる「愛と死」、その愛と死というと「トリスタンとイゾルデ」が音楽の世界では絶対欠かせない訳ですけど、ま、例えば、近松の心中ものもそうですし、イタリアのグランドオペラもそうですけど、愛と死というのはラテンの国の文化の中で、絶対欠かせないし、フランス語でいう「ラムール」と「ラモール」というのは語源としては一緒な訳ですよね。で、実際、愛と死というのは常に姉妹関係で語られます。 メシアン自身は、「いろんなことがこの曲に込められているけれど、なんと言ってもこのシンフォニーは愛の歌なんだ」と、そのことは強調なさっていました。何故これが愛の歌であるかと言うのは、奥様でありましたピアニストのイボンヌ・ロリオさん、この曲をずっと弾いて、それ以外の殆どのメシアンの曲を初演なさっているイボンヌ・ロリオさんという方が、今で言う、ま、昔言ってもそうなのかな、不倫関係にあって、メシアンというのは大変なカソリックで当時フランスは離婚が出来なかったわけですね。前の奥さんが病気で臥せてらっしゃって。
 だんだん面白くなってきたでしょう話が。もう公的にも私的にもイボンヌ・ロリオさんがメシアン夫人としてずっと付き添って、もちろんイボンヌ・ロリオさんというのは大変なピアニストな訳で、今も現役でお弾きになっています、元々はメシアンの作曲の方のお弟子さんで、実はかなりの作品を書いていた、例えば、オンド・マルトノの為にも昔の資料を見るとイボンヌ・ロリオ作曲というのがリストとして残っていたりするんです。ところが、イボンヌはメシアンにすべてを捧げると決めた時から作曲家としての彼女のキャリアを一切、消し去ったんです。
 46年から48年というのが、彼らにとって最も良い時期、いろんな意味でね、92年にメシアンさんが亡くなったとき、イボンヌ・ロリオさんは、この  トゥーランガリーラだけはもう二度と弾けないんだ、ということで、コンサートを全部キャンセルなさったんですね。
 二人にとって禁じられた愛の瞬間というんでしょうかね、で、奥様がお亡くなりになって、しかもイボンヌ・ロリオというのはユダヤ人だったので、ますます問題は複雑で、実際、62年に小沢さんがお振りになった日本初演のときというのが彼らにとっての晴れての新婚旅行だったわけです。
沼尻:ロリオさんは、メシアンが亡くなってから、イボンヌ・ロリオ・メシアンと名乗るようになりましたね。
ハラダ:そうですね。
新井:それまでは名乗れなかった・・・
ハラダ:いやいや、籍はもうそのとき(62年)に入れて、ピアニストとしてはずっと、イボンヌ・ロリオで通してきたんです。
 ちょっと、今日お持ちした本で、メシアンがずっと書き続けて、それこそ、イボンヌさんが手を加えて、今、7冊出てるんですけど、要するにメシアンの自分の作品だとか音楽語法について、若い頃に一回書いてるんですけど、それをさらにまとめたもので、この第2巻というのがトゥーランガリーラとかストラヴィンスキーの春の祭典の分析を自ら、これが、429ページでしょう、分析が200なん10ページなんですよ。よく書くなあって。自分の作品の音楽的な技法のをね、堂々と発表できるということがすごいことだなあと思います。やっぱり作曲家として秘密にしておきたいとか、あんまり人に言いたくないなとか、そんなことはどうでもよくて、音楽的な語法は、私はこういう風に作ったんです、て全部示してくれるんです。
 本当のこの曲の魅力というのは、やはり、そこにあるのではない、この和音がどうしたとかこの旋法がどうしたとかこのリズムがどうしてるとか、オタマジャクシの並びというよりは、それを超えた「愛の歌」というのが、やはり自分に絶対的な自信があって、自分の一つの作品として、それ以外の譜面上の細かいことは、どうぞ、私がちゃんと説明してあげます、という作曲家として堂々としているというか、それだけ自分の作品に自信があったんだと思いますね。
 ちょっと、しゃべりすぎましたね。

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